澤田食品株式会社
代表取締役
澤田 大地 氏
Daichi Sawada
会社の窮地に耐え、
共に挑戦していける
愛される会社であること
1961年(昭和36年)に創業した澤田食品株式会社は、国際都市、港町神戸の地より山海の厳選された原料を使用したさまざまな製品をお客様へお届けしている水産物の加工製造卸業社である。創業者の祖父がこだわり抜いた製品を大切にし、つないできたのが3代目澤田大地社長だ。苦難に陥った時には持ち前のチャレンジ精神で逆境にくじけず乗り切った。チャレンジの先にしか見えない光を掴み、経営を立て直した澤田社長の想いや今後のビジョンなどをお聞きした。
はじめに、創業からの経緯を
お聞かせください。
1961年に市場で働いていた私の祖父が独立し『澤田商店』として神戸市兵庫区にて創業しました。創業当時は、さきいかや鮭の切り身などのおつまみ・珍味販売を20年ほど行い、その後『お茶漬けシリーズ』の製造・販売を開始。これがヒットし澤田食品の商品構成の礎となりました。そして白米好きの祖父はさらに「ご飯に合う美味しいものを作ろう!」と、1988年より『ふりかけ』の商品開発に着手しました。祖父は北海道の函館も大好きだったことから、函館を連想させる『イカ』と『昆布』を使ったふりかけの開発を開始。開発好きだったので、機械を特注で作り、味にもこだわり試行錯誤を重ねていました。私が子どものころに「試食してくれ!」と何度も言われたことを今でも覚えていますね。その後1990年にウェットタイプの生ふりかけ『いか昆布』が発売され、これが当社のロングセラー商品になっています。
澤田社長が代表取締役に就任するまでの
経緯をお聞かせください。
私は2004年、21歳の時に入社し、入社当時から法人営業一筋で全国各地を回っておりました。2011年に祖父が亡くなり、父が代を継いだある時「実は経営が傾いており、財務的にも苦しく、会社が倒産する状況である」ということを初めて聞いたんです。私自身、仕事が好きで仲間たちとの雰囲気もとても良く、営業としてみんなで頑張っていたため、驚きと動揺が隠せませんでした。なにより会社の現実を聞いて、従業員の方が路頭に迷ってしまうことが脳裏をよぎった時に「雇用を守らないといけない」と強く思いました。それまで私は経営には携わっていなかったため、社長に「一度専務となり、経営に携わらせてほしい」 と打診したことが、私の経営的な歩みのスタートです。
そして、経営の勉強はもちろんのことながら「できることは何でもやろう!」という強い気持ちを持っていたところに、1枚のFAXが送られてきました。それが『第1回全国ふりかけグランプリ® 2014年』の案内状でした。「これが最後の頼みの綱だ」という思いで出場を決意し、主力製品の『イカ昆布』で初代グランプリ金賞を受賞することができました。以降、出場4大会(3製品)連続で日本一に選ばれております。このグランプリ受賞を機に各メディアへの露出も増え、沢山の方にご購入いただき、経営的に苦しい状況を脱却してきた2017年に代表取締役に就任いたしました。
目まぐるしく環境が変化されてきた中で、
澤田社長が大切に
されてきたことは何ですか?
私どもの経営理念にもあります『心身共豊(しんしんきょうほう)』“心と身が共に豊か”ということを大切にしています。この経営理念は従業員さんを想い、私自身が考えました。
私が営業としてさまざまな会社様へ訪問する中で感じていたことがあります。私が元気よくあいさつして企業様へご訪問する際、訪問先の事務所内が静まり返っている光景を見ると少し不安になりました。逆に、お客様の事務所から元気なあいさつや対応が返ってくると、この会社は楽しそうで仲間と共に頑張っている会社だと感じます。事務所の雰囲気ひとつで従業員の方が“心と身が共に豊かである”かが分かると思うんです。私は、従業員の方が“心と身が共に豊か”であること、つまり待遇面や健康面が業務と両立できている会社であれば、必然的に事業がうまくいくと思っています。
さまざまなことを乗り越えてきた中で、従業員の方に対してしっかりと向き合っていかなければいけないと感じましたし、同時に“従業員の方を重視した会社づくり”を、私が会社を辞めるまで行っていきたいと思っています。
現在の主力の商品はなんですか?
現在は、『ゴロっと北海ホタテの焦がし醤油ふりかけ』の販売に気合いが入っております。『じゅわっと焦がし醤油』の風味はまるで、ホタテの浜焼きのような味わいです。お客様より「ほたての素材感や旨みが凝縮されていて、とてもおいしい」と好評を頂いております。余談ですが、当社の製品は全国の百貨店やスーパーなどで数多く販売されているものの、テレビで放映されると「ふりかけコーナーに売っていなかった!」というご連絡をお客様から頂きます。バイヤーさんとの関係で、当社のふりかけは鮮魚コーナー付近に陳列されていることが多いと思います。
直近では、無印良品様とのお取引も開始いたしました。しかし、このお取引を開始させていただくのは、私たちにとって新たなチャレンジでした。製品チェックや工場監査が非常に厳しく、その内容は原材料のチェックから、ふりかけ内部の異物混入まで、新たに設備投資まで含まれます。しかし、お客様の食卓へ安心して製品をご提供できるよう取り組んだ結果、テレビで取り上げていただいたり、無印良品を愛する“ムジラーさん”にSNSで発信していただけたことで、想像を上回る売れ行きとなり大変嬉しく思っています。
今後、新たな事業拡大などの
ご予定はありますか?
今はネット販売にも注力しています。現在、通販サイトでの売上は当社全体の5%ほどですが、これを将来的には20〜30%にしたいと社内で共有しています。その他にも、店舗で『おいしいご飯』と『ふりかけ』をお客様にご提供できればと考えております。こちらは『テイクアウト販売』や『物販』を中心に考えているところではありますが、まだいろいろと模索している段階です。
商品の開発や事業拡大などで
常に人材が必要かと思いますが、
現在の『従業員の方の働き方』に対して
取り組まれていることはありますか?
正社員・パート・アルバイトさんを合わせて90名ほどの方が在籍しており、ありがたいことに定着率もいいです。長い方になると私が子どものころから働いてくれていて、もう20〜30年になります。また経営が傾いていた時期には、従業員の方には辛い思いをさせてしまったこともありましたが、正社員の方はほとんど退職することなく従事してくれています。本当にありがたいことです。
最近、工場長と「定着率がいい理由は何だろうか?」ということを話していました。従業員の方が自社製品を購入し家族で食べられているという話も聞きますので、澤田食品が好きで入社している方も多いのではないかと感じています。あとは、働き方(シフト)の柔軟さかなと思います。現在パート・アルバイトの方の8割は小さなお子様がいます。学校行事や家族時間を優先できるよう、現場サイドが休みやすい環境づくりとシフトの調整を行う体制を整えました。気を遣わずに休んでいただき、週5勤務やフルタイムにとらわれず、週3勤務や時短などを取り入れ、多様な働き方を重視したことが定着率の向上につながったと思います。
今後取り組みたいことや
夢をお聞かせください。
将来的に『ふりかけパーク』というオープンファクトリーを建てたいと考えており、すでに準備に取り掛かっています。ここでは実際の生産現場が目の前で見られる『工場見学』や、子どもたちにふりかけの歴史や魚の知識をレクチャーする『ふりかけ教室』もやってみたいと思っています。その他にも、自社製品のふりかけをケースに並べ、カップに自由にふりかけを入れる『オリジナルフレーバーふりかけ』を親子で作れるコーナーを設けるなど、遊び心のあるテーマパークのようなものにしたいですね。
また、当社の製品は子どもから大人までおいしく味わえる甘めの味付けなので、お客様には澤田食品のふりかけをご家族で食べて喜んでもらいたいです。そして、当社のふりかけを食べて育った子どもが大人になった時「子どものころから食べていた澤田食品で働いてみたい!」と言っていただけたらさらに嬉しいですね。
あとプライベートな夢ではありますが、ラーメンが大好きなので神戸でラーメン屋を出したいです(笑)
みんなの場に期待することを
お聞かせください。
“みんなの場”は、人材採用のツールであるのもさることながら、この神戸食品団地内や近隣の製造メーカーさんとの情報共有ができるコミュニティーになるといいなと期待しております。お互いの工場でどのように生産されているか、棚卸されているかなどの情報交換ができると従業員の方たちにとってもいい刺激になるのではないかと思います。